おいしい、あんしん。岡林農園
株式会社 岡林農園
〒781-1325
高知県高岡郡越知町浅尾(あそお)750番地
Tel 0889-27-2205
Fax 0889-27-2009
設立:2009(平成21)年2月
ホームページ http://www.buntan-ok.com/
【主要事業】
・農産物の生産、加工、冷凍、及び売買
・取り扱い商品:青果物(柑橘類)、果汁原料、加工品
仁淀川沿いながら、陸の孤島だった浅尾
「今、浅尾(あそお)地区の家は8軒しかないがよ。うち6軒が農家やき。けんど、人がおらんなっても、生まれ育った土地を大切にしたいと思いゆう。山のなかの、これっぱあしかおらん小さいところでも、やりゃあできる。そう思いゆう」
人懐こい笑顔とともに、創業者の岡林富士男社長は語ってくれた。
岡林農園のそばには、仁淀川の清らかな流れが注いでいる。映画のロケ地になった著名な沈下橋もある。とても美しい。
だが、越知町浅尾の地理条件が持つ歴史を聞くなり驚いた。
「ここは陸の孤島みたいなもんじゃった。川を超えるに、昔は渡し船に乗ったがぜよ」
当初、社長の言葉を計りかねたが、改めて地図を見ればその意味がよく分かる。うねうねと蛇行する仁淀川の東西の流れは、この浅尾地区をぐるっと囲むように、北側へ大きな湾曲を描いている。浅尾地区の南側は山。まるで山からひょいと、尾が生えたかのような形状である。橋がなければ、まさしく孤島と変わらない。「浅尾」の地名の由来を想像させてもらった。
越知町といえば仁淀川の中流域。山のなかを蛇行しながらも、仁淀の川幅は広い。今でこそ浅尾地区の南側にはトンネルが抜け、東西には橋が架かっている。だが、岡林社長が子どもだった時代には橋もトンネルもない。改めて、仁淀川の雄大な流れを知るとともに、浅尾地区の貴重な歴史を教えてもらった。
(写真左=浅尾の沈下橋)
(写真右=岡林農園の土佐ぶんたん)
地域を残さんといかん!
浅尾に生まれ育ち、家業を継ぐ形で農業に携わってきた岡林富士男社長。
父のもと、1976(昭和51)年から農業一筋に勤めるなか、個人農家ではなく会社として法人化したのは2009(平成21)年。
転機について、岡林社長は力強く語ってくれた。
「地域を残さんといかん。自然消滅させちゃあいかん」その一心だったという。
浅尾地区のみならず、越知町さらには仁淀川流域山間部の過疎化は進むばかり。だが、代々伝わる個人農家で懸命に働く人はまだまだいる。かつては個人個人でも成り立っていたが、高齢化した山間農家の次世代への継承は難しい。それを何とかしたい。地域を再生したい。岡林社長にすれば、生まれ育った土地を愛する一念である。
法人化するや仁淀川流域のさまざまな農家を訪ね、小さな集落でも何とか存続できるようにしたいと熱意を伝え続けた。一方、過疎化が進むどこの個人農家も、行く末の不安はつきなかっただろう。法人化で信頼感が高まるや、多くの農家の賛同を得て、産直中心ではなく卸売中心の業務形態が可能になった。
現在、岡林農園が束ねる農家はおよそ150軒。北は吾北から南は春野までの、仁淀川流域の広範囲な地域である。
「全部の田畑面積を合わせたら28町(ちょう)ばあになるろうか。どれっぱあか年によって違うき、はっきり分からん」
束ねる農家の全面積を尋ねた筆者の(うかつな)質問にも、岡林社長は豪快に笑い飛ばしながら答えてくれた。しかも尺貫法で表現してくれるのが嬉しい。なお、1町は約9917.36平方メートル。ほぼ1ヘクタールになるので、28町は約28ヘクタールといえる。
(写真=岡林富士男社長)
加工品
岡林農園では青果物のままはもちろん、果汁原料や加工品など、開発を重ねた商品の数々も揃えている。
そもそも加工品に興味を持つ切っ掛けは、1980年代に大分県から全国に広がった「一村一品運動」だった。越知町役場と農協が一体になり、はりはり漬けやマーマレードなどの加工品に着手。だが、当時はうまくいかなかった。
転機が訪れたのは1990年代。地元のアイスクリームメーカーとともに、ぶんたんアイスシャーベットの製造を手掛けるや、徐々に成果が表れた。その後、JAだけで出荷できないゆずを引き受けて販売し始めたのを契機に、ゆずの生産にも取り組むなど次第に工場の設備も整えていった。
そのような経緯が、2009(平成21)年の法人化にも繋がったという。
[ゼリーセット]
自然の風味のまま、無添加で加工したのが、「小夏っ娘ゼリー」と「ぶんたんゼリー」。
どこか懐かしい風味を覚えるゼリーのセットは、組み合わせ自由。
[シロップ]
左から、「ゆず」「ぶんたん」「こなつ」「しょうが」の4種類が揃うシロップ。それぞれ、150ml入りと300ml入りの2種類の大きさがある。
料理の味付けやドレッシング、あるいは焼酎やウォッカなどのアルコールと割っても美味しい一品。
[ドリンク]
果汁にはちみつを加えた、あっさりとした甘味の「はちみつタイプ」が、小夏、ゆず、ぶんたんの3種類。
高知特産の果汁に、北海道のてんさい糖を使った「ビート糖タイプ」は、ぶんたん、こなつの2種類。
この他にも、いくつもの加工商品が揃えられている。
土佐ぶんたんを世界のブランドにするぜよ!
もともとは、ぶんたん農家。現在、小夏やぽんかん、ゆず、みかんなどの柑橘類も扱うが、中心になるのは土佐ぶんたん。
浅尾の土壌を大切に、土佐ぶんたんの生産加工に力を注ぐ岡林社長の夢は、「ぶんたんのプロフェッショナルになるがぜよ!」
長年積み重ねる経験や知識、実績などをさらに膨らませ、他にはできないオリジナル商品を目指しているという。父から受け継ぐぶんたんへの愛情はひとしおである。
しかも、仁淀川中流の温暖な気候のもと、丹精に育成するぶんたんは全て無農薬。
「見栄えは、ようないかも分からん。けんど、農薬らあ一切使わんき味は間違いないちや。ほやき、おいしい、あんしん、岡林農園て謳いゆうがよ」
取材に訪れたのは、折しもぶんたんの収穫期。眩い陽射しのもと、新鮮なぶんたんの試食をしながら豪快に笑う社長の姿に、岡林農園の魅力が凝縮されている気がした。
ただ、しっかりと育成したぶんたんでも、収穫したては酸味が強く甘みが足らない。岡林農園では2週間ほど適温で貯蔵し、芳醇で甘味のある土佐ぶんたんになるまで根気強く待つ。収穫時から貯蔵時と、ここまで2段階の選別過程があるが、さらに出荷時にも厳しい目を配るのは当たり前。都合、3段階の行程で色や大きさ、肌質などを専門のスタッフが選別して商品化する。
岡林社長には、さらなる壮大な夢がある。
「欧州のワイン農家は世界に通用する文化やき、それぞれのワインがブランド品。浅尾のぶんたんも、世界に通用する文化にしたいと思いゆう。世界じゅうで、ボルドーといえばワインが頭に浮かぶように、仁淀川水系といえばぶんたん。世界のブランドにしたいがぜよ」
高知県にとっても、魅力的な夢である。
のむジュレ
第28回(平成25年度)高知県地場産業大賞 地場産業賞受賞商品。
青果物のままはもちろん、果汁原料や開発を重ねた加工商品をいくつも揃えるなか、近年の大ヒット商品が「のむジュレ」。持ちやすいカップ状の容器に入った飲むゼリーである。
原料は、高知県産の果汁と北海道産のてんさい糖に、国産の寒天。国産100%、完全無添加の自信作である。味は、「土佐文旦」「生姜」「ゆず」「トマト」の4種類。いずれも、高知県の自然素材を生かした爽やかな口あたり。朝食やおやつ、小腹が空いた時の軽食など、子どもも大人も楽しめる一品である。
答えは将来にある
(写真左=岡林農園の人たち)
2014年の春、岡林農園では13人のスタッフが働いている。しかも平均年齢はとても若く、ほとんどが20代。
県と一体になって農家を育て、農業を望む人材の育成にも力を入れているというだけに、訪ねれば若い人たちが生き生きとした笑顔で応えてくれる。しかも、新卒採用の求人対象者たちは、大学の農学部のみならず経済学部や経営学部、法学部、さらには理工学部などと幅広い。
「ビジネスも、経営も、さらには法律が分かる人材もいる。農業だけ分かっちょったらえいと思いよったらいかん」
地域における人材育成企業としても躍動するだけに、岡林社長の視野は広い。取引先は、全国におよそ500社。
「たった8軒しかない集落やけんど、都会ではできんような可能性がこの土地にはあるがやき。都会が何でも便利やとは思わん。今の世のなか、不便になることを勘違いしちゅう。機械仕掛けの都会の生活が人間らしいとは思わん。私は、この浅尾で人間らしい喜びを求めゆう」
目を輝かせながら語る岡林社長。さらに、この言葉で強く締めくくってくれた。
「若者たちが考えていけるような場を作り、学歴の知識ではなく考え方の持てる人材を育成して、次の世代に引き継ぎたい。今、答えを見出すがやない、答えは将来にあるがぜよ」